老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜
~「生理痛」の漢方治療・養生法~
生理の際、不快感は誰でも感じるはずですが、本来であれば痛みはありません。毎月の生理が辛いという方は、生活習慣と漢方で体質を改善すると、痛みから解放される可能性があります。
【生理痛の主なタイプ(中医学)】
① 寒い季節や冷えにより生理痛が悪化する
② 生理痛以外に、生理の前に胸が張り、イライラする
③ 生理が始まる前または初日に痛むことが多く、生理の血に塊が混
じる
(③のタイプは①または②の症状と一緒に現れることもある)
④ 生理の後半に痛むことが多く、生理中は眠気やふらつきを感じる
⑤ 生理痛以外に生理周期や生理の量も安定せず、腰がだるい
※子宮筋腫や内膜症、子宮の先天的な形や位置などが生理痛の原因となっていたり、いくつかのタイプが組み合わされて生理痛を引き起こしていることがあります。
症状がある方は中医師にご相談ください
【生理痛の治療法(中医学)】
① 寒い季節や冷えにより生理痛が悪化する
特徴:冷えに弱く、気温の低下や湿度の上昇により、身体の血流が悪化して生理の血
が排泄されにくくなるタイプです。冷えや湿気により血液自体が流れにくいほ
か、内臓の働きも低下して、生理痛が現れやすくなります。お腹を温めると痛
みが和らぐ傾向にあります。
治療:寒さと湿気を取り除く
+血流を改善する
養生:×生の海鮮、生サラダ、アイスクリームなど
〇シナモンティー、生姜、玉ねぎなど
② 生理痛以外に、生理の前に胸が張り、イライラする
特徴:ストレスやイライラが生理痛の原因となっているタイプです。中医学では、ス
トレスやイライラなどで「気」の巡りが悪くなり、そうすると、血液や内臓な
どが正常に動かなくなると考えられています。血流が悪いと痛みが発生しやす
くなります。「気」の巡りが悪い時は、生理の前に胸が張りやすくなります。
治療:心と身体の緊張を緩和する
+血流を良くする
養生:×唐辛子、ストレス、加工食品など
〇柑橘系の果物、セロリ、運動など
③ 生理が始まる前または初日に痛むことが多く、生理の血に塊が混
じる
特徴:血流が悪く、生理の血がスムーズに排泄されないことにより痛みが起きるタイ
プです。痛みが激しく、血液の塊が出ると痛みが和らぐ傾向にあります。①や
②の症状と一緒に現れることも多いです。
治療:血流を悪くしている原因を排除する
+血流を良くし、痛みを止める
養生:×タバコ、睡眠不足、ストレスなど
〇山査子、桃、サフランなど
④ 生理の後半に痛むことが多く、生理中は眠気やふらつきを感じる
特徴:身体に元気や血液が足りないタイプです。生理の血をスムーズに排泄しきれな
いため、主に生理の後半に痛みを感じやすく、生理の際に出血することにより
血液が足りなくなり、眠気や振らつきを感じやすくなります。生理の後半ダラ
ダラと少量の出血が続くこともあります。
治療:身体に元気や血液を補う
養生:×疲労、睡眠不足、悩みすぎなど
〇山芋、なつめ、クコの実など
⑤ 生理痛以外に生理周期や生理の量も安定せず、腰がだるい
特徴:ホルモンバランスが安定していないタイプです。生殖器系の働きが未熟だったり、働きが悪くなっていたり、年齢により衰えていたり、流産を繰り返していたりする場合にもこの症状が現れます。
治療:ホルモンバランスを整える
養生:×睡眠不足、過度な性生活、疲労など
〇クルミ、黒ゴマ、黒豆など
【生理痛の治療が得意な老中医の診察室】
劉愛武 先生
Aさんは上海に住む28歳の専業主婦です。
13歳で生理が始まった時から生理痛があり、そのたびに鎮痛剤を飲んで痛みに耐えてきました。上海の湿気のある寒さが辛く、最近冷え性の悪化と共に生理痛もひどくなり、寝込むことも多くなりました。
子供が欲しいとも思っており、このような状態ではいけないと思いクリニックを受診しました。
劉先生はAさんの話を聞いた後、詳しく質問をしていきました。すると、Aさんは手足や腰回りが特に冷えると言い、生理痛はお腹を温めると楽になると答えました。また、食欲が無く、胃の不快感があることが分かりました。
診察の結果、Aさんは生殖器系が温まることができない上に、冷えにより「気」と「血」の巡りが悪いことにより生理痛が現れていると劉先生は判断しました。さらに、長年鎮痛剤を飲んでいたことにより胃腸の機能が低下していると判断しました。
治療は漢方薬を内服してもらうことになりました。生理の間は血流を良くしながら痛みを止める生薬を組み合わせた処方を服用してもらい、生理がない期間は身体全体を温めながら「気」と「血」の巡りを良くする生薬を組み合わせた処方を服用してもらいました。
日常生活では胃腸の動きを活発にするために、消化が良く温かい食べ物を心がけ、身体を冷やす食べ物を制限するようにアドバイスをしました。また、生理の前一週間は特に腰から下を冷やさないように話しました。
診察から二週間後、Aさんは手足の冷えが少し良くなってきたのを感じました。四週間後に生理が来ましたが、まだ血液の塊が多く、生理痛が激しくて鎮痛剤を服用しなければなりませんでした。六週間後、手足の冷えがだいぶ改善し、寝込む日が少なくなりました。八週間後に生理が来た際には、血液の塊が少なくなっており、生理痛が軽減し、鎮痛剤を飲まなくても良い状態になりました。
3か月後、生理が来ないので妊娠検査をしたところ、陽性となり、治療終了となりました。
★保険についてのご質問、漢方ってどうやって飲むの?苦い?
どの先生に診てもらえばいい?などなんでもご質問ください
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- 老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜
- 2016年08月04日
~アトピーの漢方治療・養生法~
アトピーに悩む方は、皮膚の痒みや赤み、ジュクジュクなどの他に、喘息やアレルギー、胃腸の調子が悪いなどの症状を抱えていることが多くあります。
中医学では「皮膚は内臓の鏡」と言われ、皮膚のトラブルは内臓や体質から起きることが多いと考えられており、皮膚の症状を治すだけではなく、生活や食事にも気を付けなければならないとされています。
アトピーと共に体質を改善するには、どんなポイントがあるのか、ご紹介します。
【アトピーの主なタイプ(中医学)】
① アトピーの他に鼻炎や喘息もある
② アトピーの他に胃腸症状を伴う
③ 掻いた場所から黄色いジュクジュクが出る
④ 皮膚がカサカサして痒みがひどい
⑤ 皮膚が厚くなり、赤黒っぽくなっている
※この他に、熱の不均衡や冷えなどを伴っている場合もあります。アトピーでお困りの方は中医師にご相談ください。
【アトピーの治療方法】
① アトピーの他に鼻炎や喘息もある
特徴:身体の中に慢性的な炎症や免疫異常があるタイプです。皮膚炎の他に鼻炎やア
レルギー、喘息などを伴います。炎症を起こしやすいので、皮膚は赤くなりや
すいです。
治療:免疫力を調節する処方
+炎症を抑える処方
+皮膚の回復を促す処方
養生:×エビやカニ、唐辛子、酒など
〇ヨクイニン、蓮の実、銀杏など
② アトピーの他に胃腸症状を伴う
特徴:偏食があったり便秘や下痢、食欲不振などの胃腸症状を伴い、胃腸の機能が悪
いことにより栄養分の消化吸収も悪く身体や皮膚の抵抗力が弱かったり、老廃
物の排泄が上手くいかないタイプです。痒い場所を掻くと透明な浸出液が出や
すいです。
治療:胃腸の調子を整え消化吸収を促進する処方
+老廃物を排泄させる処方
+皮膚に栄養を与える処方
養生:×ケーキ、ラーメンやパン、揚げ物など
〇ゴボウ、米、アロエなど
③ 掻いた場所から黄色いジュクジュクが出る
特徴:身体の中に老廃物が溜まり、それが熱化しているタイプです。炎症が強く細菌
性の二次感染も起こしていると考えられます。
治療:身体の中の老廃物を排泄する処方
+炎症や熱を抑える処方
+解毒の処方
養生:×揚げ物、脂っこいもの、辛いもの、酒、ストレスなど
〇ドクダミ、白菜、タンポポ茶など
④ 皮膚がカサカサして痒みがひどい
特徴:皮膚を潤すための血液や皮膚の細胞に蓄えられるはずの水が不足しているタイ
プです。皮膚が栄養されないので、弱くなり、乾燥に耐えられません。
治療:皮膚に栄養を与えて潤す処方
+痒みを抑える処方
養生:×辛い食べ物、睡眠不足など
〇大根、りんご、レンコン、薄荷など
⑤ 皮膚が厚くなり、赤黒っぽくなっている
特徴:長年アトピーの悪化を繰り返している人に良く見られる症状です。主に血流が
悪いことにより起きている症状と考えます。
治療:血流を改善する処方
+いらない熱を排泄させる処方
養生:×ストレス、睡眠不足、冷えなど
〇桃、紅花、青背の魚など
【アトピーの治療が得意な老中医の診察室】
鄭淑華 先生
首と両手のアトピーに悩むAさんは30代の女性です。 幼いころから中学生まで何度もアトピーの悪化を繰り返しては西洋薬を使って治療をしてきており、しばらく症状が落ち着いていたのですが、三週間前にまたアトピーの症状が出てきました。
初診時、首と耳の後ろ、両手の平と手の甲に広い範囲でアトピーの症状が出ていました。皮膚は厚くなりゴワゴワとしており、赤く、乾燥して痒みが強い状態でした。特に睡眠中に身体が熱くなった時に痒みが悪化し、無意識のうちに搔き壊していました。便秘もひどく、3~4日に一度しか便が出ていませんでした。
鄭先生はAさんの皮膚を良く見てから、生活のこと、食事のことを質問していきました。 すると、上海に来てから仕事が忙しく、ストレスが溜まっていることがわかりました。さらに、四川料理が好きで良く食べているとのことでした。
鄭先生は診察の結果、Aさんはもともと体質が弱く胃腸の調子が悪いことにより身体の中に老廃物が溜まりやすい上に、ストレスと、辛い脂っこいものを食べていたせいで胃腸に熱がこもり、湿気が熱を帯びてアトピーの症状が出ていると判断しました、また、胃腸の調子が悪いことにより栄養分の消化吸収が上手くできず、皮膚を潤すことができずに乾燥して痒みが出ていると考えました。
鄭先生はAさんに、ネギや生姜、ニンニク、唐辛子、胡椒、辛子、酒、コーヒー、脂っこいものなどの辛いものや刺激物を避けること、魚介類のアレルギーがあるならそれも食べないようにと話しました。
治療はまず、出ている症状を落ち着かせることから始めました。身体の中の熱を排泄させ、痒みを抑える処方の漢方薬を内服してもらいながら、炎症を抑える漢方薬で皮膚を洗ってもらいました。すると、一週間後に皮膚の赤みが薄くなり、痒みが和らぎました。そこで、次に身体や皮膚の抵抗力を高め、肌に潤いと栄養を与える処方に変更をしました。すると一週間後には皮膚の症状と痒みが無くなりました。その後皮膚が再生する過程で乾燥したり、炎症が起きていた部分の皮膚が黒ずんだりしましたが、一カ月ほどするとその乾燥や黒ずみも無くなりました。その後、鄭先生はAさんの体質改善を行っていきました。胃腸の調子を整えて身体の中の老廃物と熱を排泄する処方の漢方薬をしばらく内服してもらうと、その後は仕事が忙しくストレスがある時でもアトピーの発作は出なくなりました。
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- 老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜
- 2016年07月28日
~生活習慣病の予防・養生法~
高血圧、高脂血症、高血糖などの生活習慣病は食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与すると言われています。
実は、生活習慣病のような症状は昔からあり、中医学でも長い間予防や治療をしてきています。中医学では体質や生活習慣を改善することで症状を緩和し、再発をしないような方法を取っています。
健康診断で要注意だった方や生活習慣が気になる方は、ご自分がどのタイプに当てはまるかぜひチェックしてみてください。
【生活習慣病になりやすい方の主なタイプ(中医学)】
① ストレスが多い、または喫煙する習慣がある
② イライラ、のぼせ、耳鳴りなどが起きることが多い
③ 甘いもの、脂っこいものを食べたり飲酒をする機会が多く、運動
をしない
※この他にも生活習慣病を起こしやすい体質や生活習慣があります。体調の気になる
方は中医師にご相談ください。
【生活習慣病のタイプ別予防法(中医学)】
① ストレスが多い、または喫煙する習慣がある
特徴:このタイプの方は血管が硬くなりやすく、血流が滞りやすいので、心筋梗塞・
脳梗塞・高血圧が起きやすくなります。
治療:漢方治療 緊張を緩和する処方+血管を柔らかく、血流を改善する処方
養生:×タバコ、肉、スナック菓子、冷凍食品など
〇イワシ、納豆、キウイなど
② イライラ、のぼせ、耳鳴りなどが起きることが多い
特徴:血圧が高くなりやすいタイプです。頭に急激に血や熱が上り、耳鳴りや眩暈が
したり、興奮が落ち着かず不眠を伴ったり、ひどい場合は脳内出血を起こすこ
ともあります。
治療:イライラや興奮を緩和する処方
+身体の中の余分な熱を冷ます処方
+血や熱が急に頭に上りすぎないようにする処方
養生:×ストレス、睡眠不足、辛い食べ物、酒など
〇菊の花のお茶、セロリ、苦瓜など
③ 甘いもの、脂っこいものを食べたり飲酒をする機会が多く、運動
をしない
特徴:代謝異常が起きやすく、身体の中に老廃物が溜まりやすく、排泄しにくくなる
のが特徴です。高脂血症、高血糖、肥満などが起きやすくなります。
治療:運動療法+食事、睡眠の調節+身体の中の老廃物を排泄する処方
養生:×ケーキ、ラーメン、甘い果物、お酒など
〇銀杏、苦瓜、山芋など
【生活習慣病の予防が得意な老中医の診察室】
黄健理 先生
Aさんは上海で働く40代の男性です。仕事のストレスが多く、毎日飲酒(焼酎を300ml以上)しないと眠れず、暴飲暴食により半年で体重が6kg増えました。会社での仕事効率も悪く、同僚や家族と感情的に争うことが多くなり、最近は疲れやすくだるさもあるのでクリニックを受診しました。
初診時、Aさんは疲労とイライラが浮かんだ表情をしており、血色が悪い暗い顔色をしていました。舌を見せてもらうと、暗い紫色の舌をしており、舌の表面には汚れた苔が厚くついていました。
診察の結果、Aさんは過度のストレスと緊張により、血流の悪化と集中力の低下が起きており、また暴飲暴食により身体の中に老廃物が溜まり、さらに血流が悪くなっていると黄先生は判断しました。血流が悪くなると顔色や舌の色が暗い紫色になります。
Aさんには緊張の緩和と睡眠を促進する生薬と、血行を改善する生薬を組み合わせた処方の漢方薬を飲んでもらうことにしました。また、飲酒量を制限し、晩御飯の量を減らして朝食の量を増やしてもらい、よく眠れるように日中の活動量を増やすように提案しました。
Aさんは飲酒の量を焼酎100mlに減らし、黄先生が処方をした漢方薬を飲み続けると、3週間後には寝つきが良くなり、怒りの感情が激減しました。また、疲労感も減ってきたと感じました。
6週間後には会社や家庭内のトラブルも減り、仕事の効率も良くなってきました。
9週間後には緊張やイライラすることも少なくなりました。週末にトレーニングジムで運動を始め、体重が4kg減りました。
3カ月後には飲酒をしなくてもストレスと睡眠のコントロールができるようになり、定期的な運動で体重もキープできていました。疲労感やだるさもなく、精神状態も安定しており、治療終了となりました。
★保険についてのご質問、漢方ってどうやって飲むの?苦い?
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- 2016年07月04日
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