老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜

~「睡眠障害」の漢方治療・養生法〜

睡眠状態にお悩みの方の中には、「西洋の薬を飲みたくない」と眠れないのを我慢している方もいるようです。中医学では「寝つきが悪い」「睡眠の質が良くない」などの睡眠の悩みも身体の失調と考え、原因に応じて治療をします。単純に眠らせるのではなく、体質や精神状態を見ながら治療をするので、睡眠状態の改善だけではなく、体調も良くなりやすいのが中医学の治療の特徴です。

 

睡眠障害

 

【睡眠障害の主なタイプ(中医学)】

 

① 不安で起きてしまう

 

② 動悸がして眠れない

 

③ イライラして眠れない

 

④ 昼間に眠くて仕事にならない

 

※この他にも睡眠障害のタイプがあります。実際に症状が出てお悩みの方は中医師にご相談ください。

 

 

 

【睡眠障害の分類別治療法(中医学)

 

① 不安で起きてしまう

 

特徴:「血」が不足して「心」を滋養できなくなるため、気持ちが休まらず不安な状

   態で、寝付いても物音や子供の声などで何度も起きてしまうタイプです。夢が

   多く寝た気がしなかったり、日中も元気がなく、フラフラしたり顔色が悪かっ

   たりする方が多いです。

 

※「血」とは:中医学では「血」とは身体や臓器などを潤し栄養を与え、機能が正常に行われるようにするものであると考えられています。「血」が十分に行きわたらないと、臓器や身体の働きが正常に行われなくなります。

 

※「心」とは:中医学の「心」とは西洋医学で言う心臓そのものではありません。心臓の働きの他に、興奮や安心など気持ちのコントロールをする働きもあると定義されており、気持ちが落ち着かなかったり、眠れないなどは「心」の不調が原因である場合があります。

 

治療:「血」を補い、心を穏やかにする処方

   +不安を抑えて睡眠を改善する処方

 

養生:×怖い映画、過度の運動、極端なダイエットなど

   ナツメ、リュウガン、蓮の実、松の実など

 

 

 

② 動悸がして眠れない

 

特徴:身体の中の「陰」が足りず、ソワソワして落ち着かなく、寝つきが悪いタイプ

   です。ひどければ一晩中眠れないことも。物忘れが多かったり、めまいや耳鳴

   りがすることもあります。

 

※「陰陽」とは:ものの性質を二つに分けた時に、活動性が高い、温度が高い、明るいなどの性質があるものを「陽」に分類し、活動性が少ない、温度が低い、暗いなどに分類されるものを「陰」に分類します。

一日を陰陽に分けると昼は「陽」夜は「陰」に分類されます。人の自然なリズムでは夜になると身体の中も「陰」の性質が盛んになり、活動性が下がり、気持ちも落ち着き眠りに着きます。

 

治療:身体の「陰」を補い気持ちを落ち着かせる処方

   +心を養い安心させる処方

 

養生×お酒、ニンニク、辛いものなど

   トウモロコシ、ヤマイモ、トマトなど

 

 

 

③ イライラして眠れない

 

特徴:怒ったりイライラしたりしやすく、夜になっても興奮が収まらず、眠れないタ

   イプ。頭に血が上りやすかったり、眼が充血しやすかったり、めまいや耳鳴り

   などを伴うこともあります。

 

※「肝」とは:中医学の「肝」は西洋医学の肝臓そのものではありません。血液を溜めておいて必要な時に身体のあちこちに分配したり、エネルギー、血、水などが身体を適切に巡るよう調節をしたり、自律神経や緊張、怒り、ストレスなどのコントロールをしたりする働きがあると考えられています。

「肝」の働きが過剰になっている時、イライラしたり興奮したりしやすくなり、この状態を「肝の熱が盛んになっている」と表現します。

また、「肝」に十分な「血」が送り込まれていないことが「肝」の働きが正常に行われない原因の一つとなります。

 

治療:「肝」の「熱」を冷まし怒りや興奮を緩和させる処方

   +「肝」に「血」を補い気持ちを落ち着かせ身体の緊張をほぐす処方

 

養生:×強いお酒、味の濃い焼肉、スタミナ料理など

   グレープフルーツなどの柑橘類、酢の物、牡蠣など

 

 

 

④ 昼間に眠くて仕事にならない

 

特徴:夜に「陰」が盛んになり、昼に「陽」が盛んになるという身体の中のリズムが

   乱れてしまい、昼夜逆転してしまうタイプ。

 

※「陰陽とは」:③の※を参照してください

 

治療:夜は「陰」(安心する)を補う処方

   +昼は「陽」(活性する)を補う処方

 

養生:×夜九時以降の食事、残業時の栄養剤など

   朝食のヤマイモ、朝に朝鮮人参など

 

 

 

【睡眠障害の治療が得意な老中医の診察室】

 

芦田明日香 先生

 

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上海で働くAさんは半年前から不眠に悩まされていました。

一週間に4、5日寝つきが悪い日があり、眠るまでに2~3時間かかることもありました。さらに一晩で3、4回目が覚め、ひどい時には朝まで寝付けないこともありました。
朝起きた時に頭がボーッとして、身体が疲れているのを感じており、食欲もなく、日中も仕事に集中できないということで来院されました。

 

芦田先生はAさんの睡眠の状態を確認した後、生活環境について質問していきました。

その結果、芦田先生は、一年前に上海へ赴任したAさんが、慣れない生活や仕事に加えて同僚の中国人ともコミュニケーションが上手くとれずに心身ともに緊張状態にあると判断しました。また、寝る前にくよくよと考えてしまうことも睡眠を妨げる原因になっていると考えました。

 

芦田先生はAさんの話をじっくりと時間をかけて聞き、気持ちをほぐしていきました。漢方薬は「血」を補うことにより心を穏やかにし、睡眠を改善させる処方と、「気血」を補い身体に元気を与える処方を組み合わせて飲んでもらうことになりました。

 

一週間後、Aさんは前回診察時に悩みを話せたことで気持ちが楽になり、睡眠が少し改善したと話しました。

一カ月後、寝付くまでの時間が短くなり、食欲が元に戻りました。気になることを考える時間も減りました。

二カ月後、寝付きにくい日が一週間に2、3回に減りました。目が覚める回数も減り、目が覚めてもまたすぐに寝付けるようになりました。

三か月後、寝付けない日はほぼなくなり、疲労感も無くなりました。気持ちも明るくなり仕事に対する意欲も戻ったため治療終了となりました。

 

 


 

 

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