老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜
〜「風邪&咳」の漢方治療・養生法〜
風邪と一口にいっても症状は様々、中医学では治療法がそれぞれ異なります。 漢方薬は効果が出るのが遅いと思われがちですが、風邪のような急性の症状にも良く効く処方があります。
治ったと思うとまたすぐに風邪を引いてしまう方、風邪が長引いていつまでも咳をしている方などは体質を改善することで症状が治まることが多くあります。
【風邪&咳の主な分類(中医学)】
①風邪を引きやすい
②咽喉が痒く、身体がゾクゾクする
③咽喉が痛く、発熱する
④鼻水や痰が多く出る
⑤風邪の後咳だけが長引く
⑥咳がひどく眠れない
※風邪の症状が無く咳だけが出ている場合や、喘息、ストレスによる咳などは治療法が異なります。また、風邪の場合も上記以外のタイプがあります。症状が出ている方は中医師にご相談ください。
【風邪&咳の分類別治療法】
① 風邪を引きやすい
特徴:毎年風邪が流行すると風邪を引き、治ってもすぐにまた風邪を引いてしまいま
す。このタイプの方は汗をかきやすく、身体がだるく疲れやすい傾向にあり、
偏食が多く、運動が苦手な方も多いです。
治療:胃腸の働きを良くし抵抗力をアップする漢方
流行前に予防の漢方を処方
養生:×唐辛子、アイスクリーム、ケーキなど。
〇生姜、棗、薬用人参など
② 咽喉が痒く、身体がゾクゾクする
特徴:発熱をしてもあまり高熱にはならず、寒気がして鼻水や痰がサラサラしている
タイプです。咽喉に違和感があり、痒い感じがするものの痛みはひどくはあり
ません。
治療:風邪を発散する漢方
+身体を温める漢方
+身体を温め、咳を止める漢方(咳が出る場合)
養生:×アイスクリーム、生サラダ、冷たい飲み物など
〇生姜、ネギ、赤紫蘇など
③ 咽喉が痛く、発熱する
特徴:熱や炎症の程度が強く、鼻水や痰が黄色くなるタイプです。咽喉の痛みがあ
り、咳が出る場合は激しくなることが多いです。
治療:風邪を発散する漢方
+熱や炎症を抑える漢方
+熱や炎症を抑え、咳を止める漢方(咳が出る場合)
養生:×唐辛子、生姜、ニンニクなど
〇菊の花、ミント、梨など
④ 鼻水や痰が多く、咳が出る
特徴:透明な鼻水や痰が多く出るときは冷えにより起きていることが多く、鼻水や痰
が黄色く粘りのあるときは身体に熱がこもり炎症などが起きていることが多い
です。鼻水や痰により咽喉が刺激されて咳が出ることもあります。
治療:鼻水や痰を減らし、排出する漢方
鼻水や痰が透明なら+温める漢方
鼻水や痰が黄色なら+冷ます漢方
養生:×揚げ物、甘いお菓子、冷たい飲食物など
〇ミカンの皮(乾燥させたもの)、トウモロコシのひげ、冬瓜など
⑤ 風邪の後、咳だけが長引く
特徴:風邪に抵抗する力が弱く、発熱することも汗をかくこともできずに風邪がすっ
きりと治らず、咳も長期化するタイプです。
治療:咳を止める漢方
+抵抗力を高める漢方
養生:×お酒、睡眠不足、揚げ物など
〇キャベツ、トウモロコシ、梨など
⑥ 咳がひどくて眠れない
特徴:咳が長く続くと、夜に咳き込み目を覚ましたり、眠れなくなったりすることが
あります。呼吸器系の潤いが不足してしまっていたり、長引く咳で心身も疲労
してしまっていたりするタイプです。
治療:咳を止める漢方
+呼吸器系の潤いや心身を養う漢方
養生:×みかん、コーヒー、カレーなど
〇ユリ根、ふき味噌、ローズティーなど
【風邪&咳の治療が得意な老中医の診察室】
施紅 先生
Aさんは上海在住の女性です。5日ほど前に引いた風邪がなかなか良くならず、抗生物質を飲むと身体がだるくなり嫌なので漢方で治したいとのことで来院されました。
施先生はまずAさんの話を聞きながら、話す様子をじっと観察しました。Aさんはぼんやりとした様子で、話しながら痰の絡んだ咳をしており、その声は力がありませんでした。時折鼻の横を抑えたり、咳きこんで話を中断したりしました。Aさんは咳がひどくて夜何度も起きてしまい、日中も元気が出ず気持ちも落ち込んでしまうとのことでした。
次に施先生は質問をしながらAさんの手首の脈を触り、咽喉を見て、左右の目の下の辺りと眉頭の辺りを軽く押すと、Aさんは眉をしかめ、痛がりました。舌を見ると、赤い舌をしており、表面には黄色い苔がついていました。また、Aさんは体力がなく、周りに風邪を引いている人がいるとすぐにうつされてしまうこと、アレルギー体質であること、上海に来てから咽喉の調子が悪いことがわかりました。黄色く粘りのある鼻水と痰が多く出て、寝ていると咽喉に下りてきて咳が出るのだということでした。
Aさんの症状は、もともと体力が無く抵抗力が弱く炎症が起きやすい体質である上に今回風邪を引き、副鼻腔炎も起こしてしまっていると施先生は判断しました。咳がひどく出ることでさらに体力と気力を消耗して症状がなかなか改善せず、精神的にも疲労して、日中の元気が出ずぼんやりとしていると考えました。
施先生はまず、今起きている症状を落ち着かせるために、呼吸器系の炎症や熱を抑えながら鼻水や痰を減らす漢方の処方を出しました。また、生姜やニンニク、辛いもの、魚介類、お酒は避けるようにアドバイスをしました。
一週間後、Aさんは目の下と眉の下の痛みが無くなり、鼻水と痰が減り、咳が減ってきました。日中ぼんやりすることも減りました。施先生は漢方の処方を少し調整してさらに一週間治療を続けました。
二週間後、鼻水と痰が減り、咳が少なくなりました。夜も眠れるようになり日中の気力も出てきました。風邪の症状はほとんど良くなったため、体質改善の治療に切り替えて治療を続け、調子が良いとのことで治療終了となりました。
★保険についてのご質問、漢方ってどうやって飲むの?苦い?
どの先生に診てもらえばいい?などなんでもご質問ください
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- 2016年12月02日
〜「冷え性」の漢方治療・養生法〜
厚着をしているのにちっとも温かくならない、お風呂に入って温まってもすぐに冷えてしまう、手足だけが冷えるなど、冷えの悩みは人それぞれです。
身体が冷えている方は身体の機能や免疫力も落ちていることが多く、体調を崩しやすくなります。
冷えのタイプに合わせて生活に気を付けたり、治療をしたりすることが冷えを解消するポイントです。
【冷えの主なタイプ(中医学)】
①手足の末端が冷える
②冷たい布団に入ると足が冷たくて眠れない
③冷えがひどく、なかなか温まらない
④冷えて関節も痛む
⑤下半身が冷えて上半身は熱い
【冷えの分類別治療法(中医学)】
① 手足の末端が冷える
特徴:ストレスが多かったり、几帳面な性格だったり、緊張しやすい方に多い冷えの
症状です。交感神経が興奮して末端の血流が悪くなり、身体は温かいのに手足
の先だけが冷えるのです。
治療:緊張を緩和し心を穏やかにする
+手足の血流を良くする
養生:×唐辛子、冷たいお酒、たばこなど
〇生姜、ミント、ターメリックなど
② 冷たい布団に入ると足が冷たくて眠れない
特徴:このタイプの方はお風呂に入った後や暖かい部屋では冷えをあまり感じないの
に、寒い場所では手足が冷えて、なかなか温まりません。「血」が不足してい
るタイプです。 「血」は栄養や温かさを身体の隅々まで運んでいるので、不足
すると特に手足の冷えを感じやすくなります。
また、「血」が不足している方は胃腸の栄養の吸収が弱い方も多く、
エネルギー(気)も不足していることがあります。「気」も不足している場合
は全身に冷えを感じます。
治療:血を補う
+手足の血流を改善する
養生:×アイスクリーム、菊茶、苦い料理、過度の疲労など
〇ナツメ、竜眼、粟、山芋など
③ 冷えがひどく、なかなか温まらない
特徴:老化や身体の機能低下のため身体を温める力が不足しているタイプで
す。 温めても着込んでも身体がなかなか温まらず、強い冷えを感じま
す。
その他に腰痛やトイレが近かったり、むくみを感じたりすることもあ
ります。
治療:身体を温める
+身体の機能を回復させる
養生:×冷たい飲み物、生魚、生野菜など
〇ラム肉、牛肉、シナモン、クローブ、生姜など
④ 冷えて関節も痛む
特徴:血流が悪いことにより身体の隅々に温かい血が行きわたらず冷えるタイプで
す。冷えると関節が強張り、腫れたり、むくんだり、痛みを感じたりするこ
とがあります。
治療:関節の血流を良くする
+関節に栄養を補給する
養生:×お酒、砂糖、生魚など
〇サムゲタン、よもぎ、シナモン、牛筋など
⑤ 下半身は冷え、上半身は熱い
特徴:更年期障害などで起きやすい冷えのタイプです。
中医学では冷たさや暗さなどを陰、温かさや明るさなどを陽と考えますが、こ
のタイプは陰陽のバランスが崩れていて、身体の中で熱が偏ってしまっている
と考えられます。
治療:身体を温める薬と体をクールダウンする薬、両方が備わった処方
養生:×甘いもの、油っこいもの、辛いものなど
〇黒豆、黒ゴマ、ブルベリー、ザクロなど
【冷えの治療が得意な老中医の診察室】
鄭淑華 先生
上海に住むAさんは50代の女性です。冬になり、首から肩にかけて冷えて強張り、痛みを感じるのと、両手が冷える日が続いたので当クリニックを受診しました。
鄭先生はAさんの冷えの状態に加えて体調について細かく質問をしました。すると、Aさんは冷えの他に夜なかなか眠れず、昼間に眠気と疲労感を覚えると答えました。
舌の状態を見ると表面に苔がべったりと付いており、舌には黒い斑点がありました。舌の表面の苔が厚いことは消化機能が低下していることを表し、舌の黒い斑点は身体の血流が悪いことを表します。さらに鄭先生は手首の脈を触ると、消化器系を表す部分の脈が細くて弱く、Aさんに確認をすると、食事の量は少ない方であるとのことでした。また、暖房を使わず薄着でした。
Aさんはもともと消化器系の働きが良くない上に日常生活や飲食の傾向により、身体の表面を温めるエネルギーを作り出せず、冷えにより血流も悪化して両手の冷えと首から肩にかけての強張りと痛みを感じるようになったと鄭先生は判断しました。
そして消化器系の働きを改善して身体の表面を温める力を増やし、血流を改善して痛みを止める漢方薬を処方しました。同時に部屋の環境を整え、寝る前には暖房を使い、温かい洋服を着るようにアドバイスをしました。また、冷たい飲食物を避け、食事の量を増やし、牛肉、ラム肉、ネギや生姜、山芋、サツマイモ、エビ、栗などを多く食べるように、運動をし、寝る前には足湯をして十一時までには寝るように、日中は日光浴をするようにと話しました。
Aさんは北向きの部屋に住んでおり、寒さを感じても暖房をあまり使いたがりませんでしたが、症状はだんだん良くなり、二カ月後には症状が無くなり治療終了となりました。
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- 老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜
- 2016年11月02日
~「睡眠障害」の漢方治療・養生法〜
睡眠状態にお悩みの方の中には、「西洋の薬を飲みたくない」と眠れないのを我慢している方もいるようです。中医学では「寝つきが悪い」「睡眠の質が良くない」などの睡眠の悩みも身体の失調と考え、原因に応じて治療をします。単純に眠らせるのではなく、体質や精神状態を見ながら治療をするので、睡眠状態の改善だけではなく、体調も良くなりやすいのが中医学の治療の特徴です。
【睡眠障害の主なタイプ(中医学)】
① 不安で起きてしまう
② 動悸がして眠れない
③ イライラして眠れない
④ 昼間に眠くて仕事にならない
※この他にも睡眠障害のタイプがあります。実際に症状が出てお悩みの方は中医師にご相談ください。
【睡眠障害の分類別治療法(中医学)】
① 不安で起きてしまう
特徴:「血」が不足して「心」を滋養できなくなるため、気持ちが休まらず不安な状
態で、寝付いても物音や子供の声などで何度も起きてしまうタイプです。夢が
多く寝た気がしなかったり、日中も元気がなく、フラフラしたり顔色が悪かっ
たりする方が多いです。
※「血」とは:中医学では「血」とは身体や臓器などを潤し栄養を与え、機能が正常に行われるようにするものであると考えられています。「血」が十分に行きわたらないと、臓器や身体の働きが正常に行われなくなります。
※「心」とは:中医学の「心」とは西洋医学で言う心臓そのものではありません。心臓の働きの他に、興奮や安心など気持ちのコントロールをする働きもあると定義されており、気持ちが落ち着かなかったり、眠れないなどは「心」の不調が原因である場合があります。
治療:「血」を補い、心を穏やかにする処方
+不安を抑えて睡眠を改善する処方
養生:×怖い映画、過度の運動、極端なダイエットなど
〇ナツメ、リュウガン、蓮の実、松の実など
② 動悸がして眠れない
特徴:身体の中の「陰」が足りず、ソワソワして落ち着かなく、寝つきが悪いタイプ
です。ひどければ一晩中眠れないことも。物忘れが多かったり、めまいや耳鳴
りがすることもあります。
※「陰陽」とは:ものの性質を二つに分けた時に、活動性が高い、温度が高い、明るいなどの性質があるものを「陽」に分類し、活動性が少ない、温度が低い、暗いなどに分類されるものを「陰」に分類します。
一日を陰陽に分けると昼は「陽」夜は「陰」に分類されます。人の自然なリズムでは夜になると身体の中も「陰」の性質が盛んになり、活動性が下がり、気持ちも落ち着き眠りに着きます。
治療:身体の「陰」を補い気持ちを落ち着かせる処方
+心を養い安心させる処方
養生:×お酒、ニンニク、辛いものなど
〇トウモロコシ、ヤマイモ、トマトなど
③ イライラして眠れない
特徴:怒ったりイライラしたりしやすく、夜になっても興奮が収まらず、眠れないタ
イプ。頭に血が上りやすかったり、眼が充血しやすかったり、めまいや耳鳴り
などを伴うこともあります。
※「肝」とは:中医学の「肝」は西洋医学の肝臓そのものではありません。血液を溜めておいて必要な時に身体のあちこちに分配したり、エネルギー、血、水などが身体を適切に巡るよう調節をしたり、自律神経や緊張、怒り、ストレスなどのコントロールをしたりする働きがあると考えられています。
「肝」の働きが過剰になっている時、イライラしたり興奮したりしやすくなり、この状態を「肝の熱が盛んになっている」と表現します。
また、「肝」に十分な「血」が送り込まれていないことが「肝」の働きが正常に行われない原因の一つとなります。
治療:「肝」の「熱」を冷まし怒りや興奮を緩和させる処方
+「肝」に「血」を補い気持ちを落ち着かせ身体の緊張をほぐす処方
養生:×強いお酒、味の濃い焼肉、スタミナ料理など
〇グレープフルーツなどの柑橘類、酢の物、牡蠣など
④ 昼間に眠くて仕事にならない
特徴:夜に「陰」が盛んになり、昼に「陽」が盛んになるという身体の中のリズムが
乱れてしまい、昼夜逆転してしまうタイプ。
※「陰陽とは」:③の※を参照してください
治療:夜は「陰」(安心する)を補う処方
+昼は「陽」(活性する)を補う処方
養生:×夜九時以降の食事、残業時の栄養剤など
〇朝食のヤマイモ、朝に朝鮮人参など
【睡眠障害の治療が得意な老中医の診察室】
芦田明日香 先生
上海で働くAさんは半年前から不眠に悩まされていました。
一週間に4、5日寝つきが悪い日があり、眠るまでに2~3時間かかることもありました。さらに一晩で3、4回目が覚め、ひどい時には朝まで寝付けないこともありました。
朝起きた時に頭がボーッとして、身体が疲れているのを感じており、食欲もなく、日中も仕事に集中できないということで来院されました。
芦田先生はAさんの睡眠の状態を確認した後、生活環境について質問していきました。
その結果、芦田先生は、一年前に上海へ赴任したAさんが、慣れない生活や仕事に加えて同僚の中国人ともコミュニケーションが上手くとれずに心身ともに緊張状態にあると判断しました。また、寝る前にくよくよと考えてしまうことも睡眠を妨げる原因になっていると考えました。
芦田先生はAさんの話をじっくりと時間をかけて聞き、気持ちをほぐしていきました。漢方薬は「血」を補うことにより心を穏やかにし、睡眠を改善させる処方と、「気血」を補い身体に元気を与える処方を組み合わせて飲んでもらうことになりました。
一週間後、Aさんは前回診察時に悩みを話せたことで気持ちが楽になり、睡眠が少し改善したと話しました。
一カ月後、寝付くまでの時間が短くなり、食欲が元に戻りました。気になることを考える時間も減りました。
二カ月後、寝付きにくい日が一週間に2、3回に減りました。目が覚める回数も減り、目が覚めてもまたすぐに寝付けるようになりました。
三か月後、寝付けない日はほぼなくなり、疲労感も無くなりました。気持ちも明るくなり仕事に対する意欲も戻ったため治療終了となりました。
★保険についてのご質問、漢方ってどうやって飲むの?苦い?
どの先生に診てもらえばいい?などなんでもご質問ください
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