老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜
「疲労」の漢方治療・養生法
長い時間寝ているはずなのに疲れが取れない、少し動いただけなのにすぐ疲れる、身体が重だるいなど、西洋医学では治療をすることの少ない「疲労」ですが、中医学では身体の不調として、症状に応じた様々なアプローチ方法があります。
【疲労の主なタイプ(中医学)】
① 暑さで疲れ、全身がだるい
② お酒を飲むことが多く、寝ても朝から疲れている
③ 疲労が溜まり、下痢をしたり風邪を引いたりする
④ 咳が出て疲れている
⑤ 顔色が悪かったり疲れてめまいがしたりする
※上記以外にも疲れのタイプがあります。また、疾患により疲れやだるさが出ている場合もあります。疲れが長引いたり程度がひどい場合は医療機関を受診してください。
【疲労のタイプ別治療・養生法】
① 暑さで疲れ、全身がだるい
特徴:夏の暑さで身体のエネルギーを消耗しているタイプです。身体のだるさ、元気
の無さに加え、身体の熱感や口の渇きなどを伴います。身体に湿がこもってい
ることも多く、その場合は便がゆるくなったり、身体が重たく感じたりしま
す。
治療:身体の熱や湿気を取り除く漢方に食欲を促進する漢方をプラスして処方
養生:×はちみつ、アイスクリーム、パンケーキなど
〇スイカ、緑豆、梅干しなど
② お酒を飲むことが多く、寝ても朝から疲れている
特徴:睡眠の質が悪く身体を十分に回復できていないため朝から疲れているタイプで
す。 お酒を飲んだり脂っこいものや味の濃いものなどを食べたりする機会の多
い人は、身体の中に湿った熱がこもりやすく、そうすると眠りが浅く目を覚ま
しやすくなります。
※睡眠の質が悪い原因は他にもあります。
詳しくは「睡眠障害の漢方治療・養生法」をご覧ください。
治療:余分な熱や湿を排泄し睡眠をコントロールする漢方を処方
養生:×お酒、唐辛子、揚げ物など
〇トウモロコシ、セロリ、ヘチマなど
③ 疲労が溜まり、下痢をしたり風邪を引いたりする
特徴:もともと胃腸の働きがあまり良くない人に多く、疲労や飲食物の不摂生により
胃腸の働きが悪くなるタイプです。食欲が無くなったり、下痢をしたり、身体
が重だるかったり、抵抗力も落ちて風邪も引きやすくなります。
治療:下痢や風邪などを改善する漢方に加えて胃腸を養う漢方を処方
養生:×冷たい飲食物、チョコレートやケーキなど
〇山芋、大葉、蓮の葉など
④ 咳が出て疲れている
特徴:呼吸器の潤いが失われて咳が慢性的に出ており、それにより疲労しているタイ
プです。
咽喉や口が乾燥する他、のぼせたり、寝汗が出たりすることもあります。
治療:呼吸器を潤し炎症を抑えて咳を止める処方と滋養強壮の漢方を組み合わせて処
方
養生:×生姜、大根、カレーなど
〇山芋、ユリ根、蓮の実など
⑤ 顔色が悪かったり疲れてめまいがしたりする
特徴:身体のエネルギーと血液の両方が不足しているタイプです。疲れの他にめま
い、動悸、物忘れ、筋肉がつりやすかったり痺れたりすることがあります。
また、顔色が青白く生理も不順なことが多いです。
治療:身体にエネルギーを与える漢方と血液を与える漢方を組み合わせて処方
養生:×冷たい飲食物、チョコレートやケーキなど
〇レバー、ナツメ、山芋など
【疲労の治療が得意な老中医の診察室】
施紅 先生
Aさんは上海在住の40代の女性です。上海に来て半年が経ち、最初は精力的に活動していましたが、最近は疲れやすく、何もする気が起きず、気が付くと横になって休んでいるということが多くなりました。お腹の調子も悪く下痢をすることが多く、足も冷えてむくんでいる感じがするとのことで来院されました。
施先生はAさんの話をじっくりと聞き、手首の脈を触り、舌の状態を確認しました。手首の脈は強く押し込まないと脈を打っているのがわからず、脈の力もありませんでした。舌の色は赤みが足りず白っぽい色をしており、舌全体もむくんでいました。舌の表面には白い苔がたくさん付いていました。 診察の結果、Aさんは身体の元気の源となる臓である「腎」(西洋医学の腎臓そのものではなく、生命力や免疫、若さなどと関係のある臓器)と消化器系が冷えて働きが悪くなっている状態であると施先生は判断しました。二つの臓は水分代謝とも関係があります。そのため、身体の中に余分な湿気が溜まり、だるくて下痢をしたりむくみを感じているのだと指摘しました。
治療は「腎」と消化器系を温めて働きを高める薬と身体の中の余分な湿気を排泄する漢方薬を服用してもらいました。 同時に施先生はAさんに生活上のアドバイスもしました。身体が冷えているのでシャワーではなく湯船に浸かること、適度な運動をすること、身体を温める食べ物を積極的に食べることを薦めました
Aさんは生活に気を付けながら施先生の処方する漢方薬を飲んだところ、気になっていた症状がだんだんと良くなり、三カ月後にはむくみもすっかり取れ、以前のようにすぐに横になることもなくなり、また精力的に活動されるようになりました。
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- 老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜
- 2017年07月05日