老中医の診察室〜症状別漢方治療・養生法〜

「便秘」の漢方治療・養生法

便秘とは、便の回数が減少する状態です。また、便の回数が減らなくても便が硬く排便しにくかったり、排便してもすっきりしなかったりすることもあります。

便を出すだけではなく、自然に出るように身体の中を整えることが大切です。治療には、漢方の服用と共に生活習慣や食習慣の改善も必要になります。

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【便秘の主なタイプ(中医学)】

 

① 下剤を飲まないと便が出ない

 

② 顔色が悪く、便が硬く出にくい

 

③ 生理前や環境の変化、ストレスなどで便秘になる

 

④ 排便で疲れる

 

⑤ 赤ら顔で吹き出物が多く便秘である

 

※上記以外にも便秘のタイプがあります。便秘でお困りの方は中医師にご相談ください。

 

 

【便秘のタイプ別治療法】

 

① 下剤を飲まないと便が出ない

 

特徴:長期間下剤を飲むことで、腸の働きが低下してしまったタイプです。自然な便意を感じられず、下剤を飲まないと腸が動かず、腸の中に便が長時間滞在するために水分がどんどん吸収され、硬くなります。

 

治療:便通改善の生薬に加えて、排便指導、食事及び運動療法の提案。

 

養生:×アイスクリーム、チョコレート、ドライフルーツなど。  
   ゴボウ、野菜スープ、ゴマ油、はちみつなど。

 

 

② 顔色が悪く、便が硬く出にくい

 

特徴:腸に血液が十分に行きわたらず、腸の潤いが低下しているタイプです。血流も低下し、腸の働きも悪くなりがちです。水分も低下していることもあり、その場合は口が乾いたり、肌が乾燥して粉をふいたりします。このタイプは便が硬く、コロコロとした形になりがちです。

 

治療:血液を補い、腸の血流を改善し、便を柔らかくする生薬に加えて肺からの水分消費を減らす生薬を処方。

 

養生:×四川料理、咳、利尿薬など。
   オクラ、クルミ、オリーブオイルなど。

 

 

③ 生理前や環境の変化、ストレスなどで便秘になる

 

特徴:生理前は子宮周辺の浮腫みにより、腸の動きが阻害されやすい時期です。また、イライラしたり、緊張したりしやすい時期でもあり、それにより腸の働きが低下しやすくなります。便意はあるもののすっきり出ないことが多く、時にゲップが出たり、お腹が張ったりすることもあります。

 

治療:生理前の浮腫みや緊張を和らげ、月経と大腸を健康に保つ生薬を処方。

 

養生:×お酒、不規則な食事、運動不足など。  
   ミント、ヘチマ、セロリなど。

 

 

④ 排便で疲れる

 

特徴:気力、体力ともに衰えているタイプです。便意はあるものの力むことができず、力むと疲れ切ってしまいます。便は硬いわけではなく、普段から疲れやすい傾向にあります。胃腸の働きが弱いので、食物繊維の多いものを食べ過ぎると、消化できずに余計便秘が悪化しやすくなります。このタイプの方が下剤を習慣的に飲むと①のタイプに発展しやすくなります。

 

治療:身体に元気を補い、食欲や活動力を助ける生薬を処方

 

養生:×偏食、大根、過度の疲労など。  
   山芋、ケツメイシ、プルーンなど。

 

 

⑤ 赤ら顔で吹き出物が多く、便秘である

 

特徴:身体に熱がこもり便秘になっているタイプです。暑がりで汗をかきやすく、口が乾き、吹き出物が出やすい傾向にあります。

 

治療:身体にこもった熱を排泄し、腸に潤いを与える生薬と、便を出しやすくする生薬を処方

 

養生:×辛い料理、味の濃い料理、ラム肉、イライラなど。
   アロエ、クロクワイ、ゴマなど。

 

 

【便秘の治療が得意な老中医の診察室】

 

王正中 先生

 

Dr

 

Kさんは、30代の女性です。毎年、秋の乾燥する時期になると便が硬くなり、排便が困難になる傾向にありました。最近一週間は全く排便できず、お腹が冷え痛く、踵の痛み、腰痛の症状もあり辛いとのことで来院されました。

 

王先生はまずKさんの生活や食習慣について質問をしました。寒がりで手足が冷えやすいKさんは、冷えるとトイレに行きたくなるため、慣れない上海で出かけるときには水分をとらないようにしていたのでした。また、甘いもの嗜好があり食後は必ずデザートをとる習慣が10年以上あることがわかりました。

 

次に王先生は手首の脈と舌の状態を確認しました。脈の状態は遅く力がなく、舌全体がむくんでいました。舌の表面には白い苔がたくさん付いていました。 診察の結果、Kさんは身体の元気の源となる臓である「腎」(西洋医学の腎臓そのものではなく、生命力や免疫、若さなどと関係のある臓器)の陽気(温める働き)が弱くなっている状態であると王先生は判断しました。腎の陽気が足りなくなると身体全体の水分代謝とも関係があります。そのため、大腸の潤いがなくなり、乾燥する秋になると症状が悪化していた指摘しました。

 

治療は「腎陽」を補い身体を温め、水代謝を改善する薬と大腸に潤いをあたえ便を柔らかくする漢方薬を服用してもらいました。 同時に王先生はKさんに生活上リズムのアドバイスもしました。食事時間や排便時間の関係があること、適度な運動をすること、睡眠前に蜂蜜を飲むことや身体を温める食べ物を積極的に食べることを薦めました 。

 

Kさんは生活リズムに気を付けながら王先生の処方する漢方薬を飲んだところ、三日後排便があり腰痛や踵の痛みも軽減され、お腹の冷えも気になっていたが少し暖かく感じるようになりました。三カ月後には1~2日に一回は排便できるようになり、手足の冷えは前年の冬よりも改善されるようになりました。

 

 


 

 

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